英語を扱う作業をしたり、英語のホームページを眺めたりすると、英語には真っ直ぐな1本か2本の線の形をしたコーテーションマーク(引用符)と、オタマジャクシのような曲がったタイプのコーテーションマークがあることに気づくと思います。どちらも同じ役割を果たすようですが、どのような違いがあるでしょうか。また特に英文の書類や印刷物を作成するときに、どちらを使えばいいでしょうか。
それぞれの名前
曲がっているのと真っ直ぐなのとにそれぞれ名前があります。曲がっている方は、「Smart quotes」(スマートコート)と呼ばれたりしています。
なにがスマートかというと、WordなどでShift+2(英語キーボードだとShift+Lの右の右のキー)を押すと、自然に曲がっているコーテーションペアの左側のが入力され、それに続く文でもう1回同じ操作をすると形の異なる右側が自動的に入力されるということができるからだそうです。なるほど。
それに対して真っ直ぐな方「Straight quotes」(ストレートコート)と呼ばれています。こちらはそのまんまです。
印刷物ではどっちを使った方がいい?
結論からいうと、曲がっている方を使うべきです。
なぜなら、こちらの方が本来の組版ルールに則ったものであり、英語圏の印刷物ではほとんど曲がっている方を採用されているからです。
英文のスタイルガイド『シカゴマニュアル・オブ・スタイル』(The Cicago Manual of Style)でも次のように規定しています。
Published works should use directional (or "smart") quotation marks, sometimes called typographer's or "curly" quotation marks.
出版物では、タイポグラファーまたは「カーリー」クォーテーションマークと呼ばれることもある方向性(または「スマート」)クォーテーションマークを使用する必要があります。
曲がっている方は読者にとっても馴染みやすく、しっかりした印刷物であるという印象を与えることができます。
そもそもなぜ2種類あるのか
元々まだタイプライターもなかった活版印刷の時代においては、曲がっているコーテーションマークしかなかったそうです。
真っ直ぐなコーテーションマークはタイプライターと共に登場します。タイプライターのキーに載せられる文字数に制限があり、左右で形が異なる曲がっている方は余分にキーを占有するので、左右で同じ形の真っ直ぐなコーテーションマークがタイプライターに搭載されるようになりました。
やがてコンピュータが登場しますが、初期のコンピュータはやはり文字数制限が厳しく、真っ直ぐなコーテーションマークはそのまま継承されていきました。
曲がっているコーテーションマークがコンピュータシステムに登場したのはユニコード(Unicode)が採用されてからでした。ユニコードはいろいろな言語の多種多様な文字を扱うことができ、その中で3バイト文字として曲がっているコーテーションマークが追加され、再び使われるようになりました。
これがコーテーションコートに2種類が併存している歴史的な経緯です。
使用例を調べてみた
前のような経緯を辿ってきたので、特にネット界隈では混用が多いようです。実際の使用例を調べてみました。
BBCのネットニュースでは真っ直ぐな方が使われているようです。けどタイトル部のシングルコーテーションでは逆に曲がっている方が使われており、不統一が目立ちます。
一方、「The Times」(タイムズ)では、曲がっている方が使われているようです。
しかし上記の混用にかかわらず、印刷物ではが圧倒的に曲がっている方が使われており、手元の英語本や紙新聞の画像をネットリサーチしても、真っ直ぐなコーテーションマークの使用例がこちらで確認した限りでは見当たりません。
翻訳の校正時に手直しを
弊社に登録のある翻訳者さんは、ネイティブを含め、真っ直ぐなコーテーションマークを愛用する人が多いようです。理由は様々でしょうが、左右の形の違いを気にしなくていいといったことが考えられると思います。(こちらについては後日アンケートでもしようかなと思っています。)
翻訳者が提出した訳文を校正時に曲っているコーテーションマークに直すのが、弊社の校正項目の1つです。左右で形が異なっているので一括置き換えができず、1個1個確認して修正していきます。
ぜひ皆さんも印刷前提のファイルを作成する際に、気をつけていきましょう。